剣術や剣道の用語から残る日常言葉

日本語の歴史は諸説あると思いますが、古くは、縄文時代からあったようです。

言葉の歴史は古いのですが、様々な生活や、出来事の場面の中で生まれたり、その時代背景をうかがわせる言葉が日常会話の中に残っていたりします。

今も普段私たちが何気なく使っている言葉の中には、剣術や剣道などの用語が含まれていたり、日本刀にまつわる言葉が含まれていることがあります。

たとえば学生同士でこんなよくある会話があったとします。

「いやぁ、さっきの抜き打ちテストだけど、まったく準備ができてなかったんで、たぶん答案はトンチンカンな内容になってるだろうな。」

「もっと真剣に授業を聞いておいたらよかったな。でもあの先生とはなんとなく反りが合わないんだよね。」

こんな会話のなかにも刀剣の慣用句が4つもあるんですね。今回はそういった日本刀に縁のある言葉と少しばかり紹介します。

「元の鞘に納まる」

刀の鞘は、それぞれの刀身に合うように作られます。ですから他の鞘に入れようとするとなかなか入らないのですが、元々の鞘にはスンナリ入ります。この事から、仲違いした者どうしが元通り一緒になる事を言います。

「反りが合わない」

刀はそれぞれ反りが違いますので、当然それを収める鞘も反りがそれぞれ違います。ですから他の鞘に入れようとしても入りません。この事から相性が合わない事を、「反りが合わない」と言います。

「頓珍漢(とんちんかん)」

刀は鉄を鍛えて完成するものですが、師匠と弟子が組になって鎚を打ちます。その時の槌音の間合いと響きを表す擬音をトンテンカンというのですが、調子が外れたときはトンチンカンと聞こえたといいます。このことから、物事の調子はずれやまったく的外れなことを意味する言葉となったようです。

「抜き打ち」

刀を抜いたとたんに斬りつける技を抜き打ちといいます。相手が構える間を与えずいきなり斬りかかる、この事から予告や前触れも無く、いきなり何かをする事を言います。

「地が出る」

日本刀は美しく硬い鉄で、中の柔らかい鉄を包む構造をしています。しかし使っていくうちに、研ぎで表面の硬い皮鉄(かわがね)が薄くなり、中の芯鉄(しんがね)が表面に出ることを言います。このことから、表面だけを繕う人が、何かのきっかけでその本性が見えてしまい、醜い本来の姿をさらすことになったときに使う表現となりました。

「真剣勝負」

木剣や竹刀ではなくまさに本物の刀で勝負をすること、つまり一瞬でも油断したら命を落としかねないような状況で勝負をすることが真剣勝負です。それから転じて一生懸命にまじめに物事に対するさまや、本気で物事に取り組むさまを表すようになりました。

「鎬(しのぎ)を削る」

鎬(しのぎ)は、刀身の刃と峰の間で稜線を高くした部位で、刀で激しく斬り合っているうちに、その鎬が削れ落ちていくさまを「しのぎを削る」というようになりました。

「鍔迫り合い」

こちらは、互いに打ち込んだ刀を鍔で受けとめたまま一歩も譲らず押し合う様子で、力の拮抗した激戦の事を言います。

以上は主に日本刀にまつわる言葉なのですが、それ以外にも、

「打ち込む」

相手に打ってかかることを指しますが、転じて全力をあげて一つの事に当ることを表す表現ですね。「すべてを忘れて仕事に打ち込んだ」といった使い方です。

「一刀両断」

文字どおり一太刀で物を真っ二つに切ることで、そこから思いきってすみやかに処置したり、断固たる態度で物事を解決することを指します。「総裁の一刀両断の解決が望まれる」などと使われます。

「相槌を打つ」

 これももともとは刀鍛冶にかかわる言葉で、刀匠が刀を鍛えるとき、師匠の打つ槌の合間に弟子が槌を入れる動作を「相槌を打つ」ということから、相手に合わせることを指すようになりました。似ている言葉に「阿吽(あうん)の呼吸」があります。

このようにほんの一部を取り上げてもいろいろ日本刀や時代背景から、剣術や、剣道にまつわる表現は日本語のなかに生きています。 皆さんも、日常会話の中で探してみましてくださいね。