剣道試合・審判規則の改正の理由と過去の改正との違い

2019年4月1日から、試合・審判規則の改正により、剣道具や竹刀の規定ルールの改正が行われました。

この規定改正のきっかけとなったのは、公式規格はクリアーしているものの、試合中に破損するケースが2014年前後から見られるようになったからです。

それより以前から、竹刀を削って軽くすることは一部で行われていましたが、実際のところは規定逃れの改造が当たり前になっていたのが現状だったと思います。

さらに防具についても、面垂や小手筒が過度に短いものや、布団が極端に薄く軽量なものが流行し始めていましたのもこの時期あたりからです。

剣士のみなさんが安心、安全に剣道を続けていくというのが、私たち武道具メーカーの想いです。そしてお客様の安全性を踏まえながら、常にお客様のニーズに沿った製品開発を行なっています。しかしながら、ニーズを反映させていく過程において、安全性の疑問が発生するのであれば、修正していく必要性はもちろんあります。

さて、今回規制改正となり、竹刀はこのような規定となりました。

細則 第2条 規則第3条(竹刀)は、次のとおりとする。


1. 竹刀の構造は四つ割りのものとし、中に異物(先革内部の芯、柄頭のちぎり以外のもの)を入れてはならない。ピース(四つ割りの竹)の合わせに大きな隙間のあるものや安全性を著しく損なう加工、形状変更をしたものを使用してはならない。各部の名称は第2図のとおりとする。


2. 竹刀の基準は、表1および表2のとおりとする。ただし、長さは付属品を含む全長であり、重さはつば(鍔)を含まない。太さは先革先端部最小直径(対辺直径)およびちくとう部直径(竹刀先端より8.0センチメートルのちくとう対角最小直径)とする。また、竹刀は先端部をちくとうの最も細い部分とし、先端から物打に向かってちくとうが太くなるものとする。

全日本剣道連盟「剣道試合・審判規則の改正について

一方剣道具は、このような形で目安目標となり、我々武道具メーカーが安全に対して留意しなければいけない項目です。

細則 第3条 規則第4条(剣道具)は、第3図のとおりとする。


面部のポリカーボーネート積層板装着面は、全日本剣道連盟が認めたものとする。


面ぶとんは、肩関節を保護する長さがあり、十分な打突の衝撃緩衝能力があるものとする。


小手は、前腕(肘から手首の最長部)の2分の1以上を保護し、小手頭部および小手ぶとん部は十分な打突の衝撃緩衝能力があるものとする。


小手ぶとん部のえぐり(クリ)の深さについては、小手ぶとん最長部と最短部の長さの差が2.5センチメートル以内とする。


細則 第3条の2 剣道着の袖は、肘関節を保護する長さを確保したものとする。


細則 第15条 規則第17条第1号の不正用具とは、規則第3条に規定する竹刀(細則第2条で定める規格を満たしているものに限る)および同第4条に規定する剣道具(第3図に図示する面、小手、胴、垂)以外のものをいう。なお、細則第3条第2号から第4号および同第3条の2の基準に合致しない剣道具または剣道着は不正用具としない。この場合、試合終了後に審判員から注意を与える。

全日本剣道連盟「剣道試合・審判規則の改正について」

今回の規定改正は、試合に勝つために動きやすさを重点に考えた商品が流行し、その結果「安全性」が疑問視されたために実施されたものです。それでは、過去にどんな規定改正と背景があったのか見てみましょう。

実は、この剣道試合・審判規則の歴史はそんなに古いものではなく、前回の改正は平成11年の4月1日から施行されたもので、今から約20年前のことです。

20年前の規制は、それ以前のものに比べて特に教育的な要素がテーマとして改正されたようです。例えば、

学校体育における剣道の試合は,単に勝敗を争うことに意義を見いだすものであっては ならない。勝利を目指しながらも勝ちに満足することなく,勝敗を超えた心の練磨を積む ところに教育としての剣道の価値がある。また,このことは生涯体育・スポーツとしての 剣道の意義にも通じるものである。

剣道の試合を実施する場合には,常に教育的立場からみつめ,単なる勝負 の場としてではなく,人間形成の場となるように考えていかなければならない。

具体的には,判定の基準や審判の仕方を工夫して行い,その試合の結果だけにこだわる のではなく,身に付けた技を試す機会として活用し,その内容から新しい課題を見いだす ことができるようにする。さらに勝敗に対して,公正な態度がとれるようにするとともに, 新しい課題を解決していくための学習に生かすようにすることが大切である。

と言うように、剣道をはじめとする日本の武道本来が持つ「人間形成」と言う理念への回帰から改正されたようです。

そのような観点から今回の改正を見ると、競技に勝つことに趣を置かれてきた風潮の結果でもあるように感じます。

試合に勝つことは大切なことですが、私たち日本人が武道特有の美徳を再認識しなければいかないのかもしれません。実際、海外における剣道の人気は、試合に勝つよりももっと本質的な部分を理由として挙げられているほどです。「相手のことを重んじる心」を養い、自分と向き合い、自分との戦いに克つために精進することの大切を学べるのが剣道です。

私たちも、剣士のみなさんが安心、安全に競技を続けていけるように最善を尽くしていきたいともいます。